
古来より伝わる物語である三国志。その名だたる武将たちが皆女性だったら、という世界にて。魏国の桂花という武将は戦果を上げ、愛する指導者である華琳――曹操の元に戻ってきていた。
「華琳様。ただいま戻りました」
「ええ。お疲れ様、桂花。……どんなご褒美が欲しいかしら?」
あっけらかんと直球で言ってのける華琳に、桂花は返す言葉もなく顔を赤らめてしまう。
「困る桂花は相変わらず可愛いわね……いいわ、ついてきなさい」
そう言って華琳は桂花を引き連れて、自身の寝室へと向かっていく。桂花は何が起きるか期待に胸を膨らませながら、寝室への扉を開くと――
「なっ……」

――そこにいたのは、華琳の腹心である二人の女武将、春蘭と秋蘭。その二人があられもない姿で寝室におり、そこには一人の男が共にいた。桂花が思考を巡らせていると、後ろにいた華琳が寝室の扉を閉める。
「華琳様、こいつは――」
「何を言っているの桂花。私たちのご主人様じゃない」
「――は?」
至って当たり前の様子な華琳に、桂花は混乱して言葉を失ってしまう。その間にも華琳は男に近づいていくと、気絶している春蘭と秋蘭には構わず、男に抱きついていく。
「どうでしたかご主人様、お二人は?」
「まあまあだな。華琳の方が好きだ」
「まあ、それはもちろんね……どうしたの桂花、あなたもこっちに来なさい」
「……貴様、華琳様に何をした!」
この世界の武将たちには、武将としての名前の他に親しい者にしか明かさぬ真名がある。それが華琳である筈が……その男は、構わず真名を呼んでいる。その怒りから桂花は男を問い詰めるが、華琳が少しイラついたかのように返答した。
「……さっきから何を言っているの桂花。私たち魏の目的はご主人様にこの世の美女を全て捧げること。なら、まずは自分たちを捧げるのが筋でしょう?」
「――――ッ」
華琳は男に操られている。その言葉からそれを確信した桂花は、何も言わず男を殺そうと動き出し――

「……まったく、ご主人様に逆らおうだなんて。桂花には後でお仕置きね」
男が手をかざした瞬間に動きを止めた桂花を見ながら、華琳は不甲斐なさにため息をつく。秋蘭と春蘭は、気絶するまでご主人様に尽くすくらい、羨まし――立派に職務を果たしているというのに。
「ごめんなさいご主人様。だから代わりに、私にお仕置きをくれてもいいのよ?」

そして魏は、更に領地を広めようと国力を高めていく。その目的は一部の者しか知らないまま……